セントラル便り

がんの痛みとモルヒネ

がんになると痛みで苦しむと言ううわさを時々聞きます。しかし、すべてのがんに痛みが伴うわけではありません。例え痛みがあっても、今ではがんの痛みに対する適切な治療法が提示されていますから、痛みを抑えて平穏な生活を送ることが可能になっています。ここでは、がんの痛みに対する治療の中心になる薬物療法について、世界保健機構(WHO)が提唱しているガイドラインを紹介します。

痛みとは何?
痛みは、私たちがこれまでの生活の中で体験してきた不快な感覚です。体が感じる感覚であると同時に、恐怖感などの感情体験でもあります。痛みは、個人が体験として感じる感覚ですから、医者も含めて他人には見ることができません。痛みを知る為には、患者さんの言葉や表情だけが唯一の頼りともいえます。
痛みは体がさらされている危険な状況を知らせる警報の役目をしています。私たちの体には警報機の働きをする痛みセンサーが張り巡らされています。これが、痛みの感覚器で、侵害受容器とよばれています。侵害受容器は体の表面だけではなく、内臓や筋肉、血管などからだのほとんどの部分に分布しています。痛みの原因となる障害が発生すると、侵害受容器が刺激を受け、その刺激が神経を伝わって脳に達し、痛みを自覚します。これを侵害受容性疼痛といいます。
一方、体の各部から脳に至る様々な神経の神経線維が障害されたときにも、脳には警報機のサイレンが鳴ります。この時のサイレンは言わば電話の雑音のようなもので、通常のサイレンとは警報機の鳴り方がちょっと違います。この痛みを神経因性疼痛と呼んでいます。
がんの痛みは、侵害受容性疼痛と神経因性疼痛の両者が関係していますが、多くは前者といわれています。骨転移に伴う痛みは骨膜や骨髄に分布する侵害受容器を介する痛みとして有名です。腸閉塞に伴う痛みも腸が過伸展することによる腸間膜の痛みと平滑筋の緊張による伸展のための侵害受容性疼痛みです。
腫瘍が大きくなる事によって近傍の神経線維や脊髄が圧迫されたときに生じる痛みは神経因性疼痛です。

痛みの治療
がんの痛みを緩和する為には、まず痛みの原因を取り除くことが第一選択です。手術で病巣部位を取り除く、抗がん剤や放射線でがんの増殖を抑える、といった方法がこれに当たります。これ等で有効な鎮痛効果が得られないときには、鎮痛剤による薬物治療が必要になります。

がんの痛みに使われる治療薬

非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)
侵害受容器は物理的刺激だけでなく、周囲の細胞から放出される化学物質によっても刺激を受けます。侵害受容性の痛みを抑える為には、炎症物質を作らせないことが重要です。この作用を通じて鎮痛効果を発現する薬が消炎鎮痛剤です。この群に属する薬は、解熱鎮痛剤としてよく用いられている非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)と、副腎皮質ステロイド(ステロイド剤)があります。
非ステロイド性消炎鎮痛剤とステロイド剤は、ともに炎症物質を作る過程を阻害することで鎮痛効果を発揮しますが、両者は作用点が異なります。

オピオイド
一方、神経線維を通じて脳まで達した痛みの信号を止めることによっても、鎮痛効果が得られます。モルヒネに代表されるオピオイドと呼ばれる薬たちがこの群の代表です。
オピオイドには、鎮痛効果の強さによって弱オピオイドと強オピオイドに分類されていますが、本質的には同じ種類のものです。前者の代表は燐酸コデイン、後者の代表は塩酸モルヒネでしょう。

WHO方式がん疼痛治療法
がんの痛みに対する薬物治療の指針して、世界保健機構(WHO)は、がんの疼痛治療についての指針を発表しています。ここで推奨されている薬は非ステロイド性消炎鎮痛剤とモルヒネを中心とするオピオイドです。これにステロイド剤や抗痙攣剤、抗痙攣剤などの補助薬を組み合わせる事を勧めています。痛みの程度と薬の組み合わせを3つの階段で表現しています。これは、WHO除痛ラダー(梯子)と呼ばれています。

WHO除痛ラダー
第1段階 比較的軽い痛み
少しでも痛みが有れば第1段階の鎮痛薬を使います。ここで使われる薬は、先程述べた非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)です。主として経口剤ですが、坐剤(肛門から挿入)や注射剤もあります。

第2段階
NSAIDsだけでは痛みが十分取れないとき、弱オピオイドを併用して使います。それまで使っていたNSAIDsに併用することが大切です。両者は鎮痛剤としての作用機序が異なるため、同時に使うとお互いの作用を補い合うことができるからです。
しかし、弱オピオイドの代表である燐酸コデインは、体内でモルヒネに変化することで痛み止めとしての働きを発揮しますから、少量のモルヒネと同じと考えられます。ですから、第2段階は必ずしも必要ではありません。

第3段階
第2段階の薬では十分に痛みが取れないとき、オピオイドを使います。この時も作用機序の異なる薬は併用することが推奨されています。オピオイドには、モルヒネの他に、フェンタニル、オキシコドンなどが使われます。 第3段階でも痛みが取り除けなければどうするか? 心配いりません! モルヒネを始めとするオピオイドは大変優れた鎮痛剤で、用量限界が有りません。痛みの程度に応じていくらでも増やすことが出来ますし、それによる副作用も心配いりません。ステロイド剤やその他の鎮痛補助薬を組み合わせることによって、痛みのほとんどは第3段階で緩和することが可能といわれています。

しかし、神経因性疼痛など、NSAIDsやオピオイドが効きにくい痛みもあります。鎮痛補助約を組み合わせることや、神経ブロックなどの方法が有効なこともあります。

WHO方式がん疼痛治療薬の基本薬のリスト(1996年改訂)
基本薬代替薬
非オピオイドアスピリン
アセトアミノフェン
イブプロフェン
インドメタシン
コリン・マグネシウム・トリサルチレート
ジフルニサル
ナブロキセン
ジクロフェナック
軽度から中等度の
強さの痛みに用いる
オピオイド(弱オピオイド)
コデインジヒドロコデイン
デキストロプロポキシフェン
あへん末
トラマドール
中等度から強度の
強さの痛みに用いる
オピオイド(強オピオイド)
モルヒネメサドン
ヒドロモルフォン
オキシコドン
レボルファノール
ベチジン
ブプレノルフィン
オピオイド拮抗薬ナロキソン
抗うつ薬アミトリプチリンイミブラミン
抗けいれん薬カルバマゼビンバルプロ酸
コルチコステロイドプレドニゾロン
デキサメタゾン
プレドニン
ベタメタゾン
向精神薬ジアゼパム
プロクロルペラジン
ヒドロキシジン
クロルプロマジン
ハロペリドール


モルヒネのはなし
モルヒネは大変有効で安全な薬です。鎮痛効果があり、吐き気や便秘以外には目立った副作用がありません。有効で安全な薬であるにもかかわらず、世の中から白い目で見られてきた不遇の薬でもあります。
モルヒネを鎮痛剤として適正に使用する限り、精神がおかされたり、依存性が出たりすることはありません。それにもかかわらず白眼視されてきた背景には、かってアヘンが社会問題だった遠い時代の歴史があることと、第2次大戦後に世界中で行われた麻薬撲滅キャンペーンの中で過剰に脅かされたことが大きな原因です。

サイバーナイフ治療
手術と異なり、身体に傷を付けることなく可能な治療です。放射線をあてても、患者さんは痛みや熱さを感じることは無く、手術のように麻酔をかける必要もありません。治療後も臓器の機能・形が維持されることが多い為、患者さんの身体への負担も少なくすることが可能であり、日常生活に近い状態で過ごすことができます。また、身体への負担が少ないのでご高齢の方、合併症があって手術が受けられない方でも治療できることが多いのが特徴です。
当院サイバーナイフセンターにてサイバーナイフ治療を行っております。

緩和ケア治療
患者さんのからだや心のさまざまな”苦痛”を取り除き QOL(Quality of Life=人がより人間らしく生きていくこと)を高めていく医療が緩和ケアです。 緩和ケアは患者さんががんの痛み(身体的苦痛)だけでなく、これにからみあい複雑な苦痛(トータルペイン=全人的苦痛)を軽減させる医療です。
外来・病棟にて緩和ケア治療を行っております。

痛みをこらえるためだけに大切な一日を消費してしまうことほどもったいないことはありません。適切な薬の使用や治療で、がんの痛みは取り除けるのです。がんは今では痛みで苦しむ病気ではありません。
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