セントラル便り

油彩つれづれ 10
Freedom と Liberty


つくばセントラル病院脳神経外科医師 榎本貴夫

 

先日夕方、帰宅途中で車のラジオからライムライトの曲が流れてきた。この曲はチャップリンCharles Spencer Chaplin(1889-1977)によって作られたものであるが、20世紀前半最も名声を勝ち得た俳優兼監督であった彼が、なぜハリウッドを追放されヨーロッパへ行かねばならなかったのか、なぜ1952年のアメリカ再入国が許されなかったのであろうか。
ヨーロッパの言語はラテン諸語、ゲルマン諸語、スラブ諸語に大別される。西ヨーロッパでは前二者が主流であるが、英国はゲルマンの末裔である。ところがその英国が王位継承騒動で揺らいでいる隙に乗じられ、ノルマン公国のウイリアム征服王に併合されてしまったのである。この時にラテン諸語の一つ恐らくはフランス語が大量に流入したのではないかと思われる。以後英語には同意異句が出現したのである。例えは「自由」にはfreedomとlibertyがある、などである。研究社出版新英和大辞典によればfreedomは(政治的)自由、自主、独立などとありlibertyは(束縛からの)自由、解放、さらに転じて(度を越した)自由、無礼などとある。解りやすく敷延すると一つの巨大な体制の中で自由に活動できる自由はfreedomである。英国で王室の好き嫌いを論じることは自由であるが、もしその解体追放を声高に叫べば恐らく市民権は無いであろう。最近のテロ行為を檄するイスラム指導者の国外追放騒ぎもそれである。一方フランスでは空恐ろしい話であるがマリーアントワネットを断頭台にかけて民衆は体制からの自由を勝ち取った。Libertyである。フランスはアメリカに自由の女神Statue of Libertyを送ったがアメリカはFreedomを取った。英国の貧しい階層の芸人の子として育ったチャップリンだからハリウッドで錦を飾った後でも尚あの哀愁を秘めたライムライトを作曲できたのである。社会主義を口にしたのは極めて自然に思われる。そしてアメリカがそれを許さなかった。彼を追放したのもアメリカの持って生まれた性なのである。しかし完全なlibertyは国家存立基盤と相容れないironyを内在することも事実であろう。
 ところで一昨年の夏であったろうか、千葉県の外房、鴨川シ−ワールドを訪れたことがある。数種の海獣の見事な知能と運動能力を見ることができた。抜けるような青空の下、白いスラックスをはいた若い調教師がきびきびと指示を出す。イルカが6mのジャンプを成功させる。歓声が上がる。まさに平和と幸せの構図であった。しかし、ちょっと心を鎮めると見えてくるものがあった。

飼育用プールの中で餌は十分であろうが巨大な体の置き所も無く同じ場所を旋回しているシャチを見ていると彼あるいは彼女はfreedomをenjoyしているのだろうか、或いはlibertyを求めて葛藤しているのだろうか、何れであろうかと考えてしまう。まっ、話が堅くなった。ともかく絵を描いてみよう。

 

freedom
作 脳神経外科 榎本 貴夫
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