歯科口腔外科

顎関節症について

顎関節症とは、あごの関節の周りに何らかの異常が生じる病気です。顎関節症の代表的な症状は、「あごが痛む」「口を大きく開けられない」「口を開ける時音がする」など疼痛、開口障害、関節雑音の3つです。実際にはこれらの症状が1つだけの場合もありますが、2つ以上重複して起こることが多いようです。

皆さんも「食事や話をした後にあごがだるくなったり、疲れたりする」「あごを動かすと痛む」「口が大きく開かない」「口を開け閉めすると、音がする」などの経験はありませんか。こうした症状があれば、顎関節症の可能性があります。顎関節症は聞きなれない病名だと思われるかもしれませんが、珍しい病気ではなく、皆様の身近にある病気です。

現在、軽症のものから、かなり重症のものまで、治療方針、治療方法がかなり確立してきています。保存的治療で、約8割の人が良くなっています。手術をしなければならない人は、あまり多くありません。早めにきちんと手当てすることが大切です。

MRI所見:関節円板が前にずれてしまい、障害になっている。

閉口時
開口時

顎関節症の分類

日本顎関節学会より2013年に新たに顎関節症の病態分類(2013年)が発表されました。

咀嚼筋痛障害 myalgia of masticatory muscle (Ⅰ型)

顎関節症に関係の深い筋肉は咀嚼筋(そしゃくきん)で、咬筋、こめかみにある側頭筋、そして内側翼突(よくとつ)筋、外側翼突筋の4種類からなっています。これらの筋肉が、何らかの原因で緊張し過ぎてかたくなると、その部分の血管が収縮し、痛みを生じます。これが筋性の痛みです。筋性の痛みの特徴は、鈍い痛みで、また筋肉にコリコリした「しこり」ができることがあります。しこりを押すと強く痛み、また、頭部や首、肩など遠く離れたところにも関連痛が起こることもあります。筋肉が緊張し過ぎてかたくなってしまうと、痛みだけでなく、関節そのものには異常がないのに開口障害が起こることもあります。

顎関節痛障害 arthralgia of the temporomandibular joint (Ⅱ型)

これは、顎関節が捻挫をしたような状態と考えてよいでしょう。関節円板の後部組織や関節包、靭帯などに力が加わって損傷が生じるもので、「関節包炎」や「滑膜炎」などの炎症を起こし、あごを動かすと痛みます。

顎関節円板障害 disc derangement of the temporomandibular joint (Ⅲ型)

(a) 復位性 with reduction
(b) 非復位性 without reduction

これは、関節円板が本来の位置からずれてしまうものです。関節円板は前後の連結があまり強くないため、関節円板は前後に動きやすく、関節円板の後部組織が伸びやすい構造をしています。関節円板が前後に動いているうちに、後部組織が伸びてしまい関節円板が前方にずれたままの状態を「関節円板前方転位」と言います。口を開くことによりずれた関節円板が下顎頭の上にもどる勢いでカックと関節雑音が生じます。これを「クリック音」と言います。このように開口により関節円板が正しい位置にもどるタイプを、「復位を伴う関節円板前方転位」と呼んでいます(a)。症状が進行すると、口を開けても関節円板が前方にずれたままでもどらなくなることがあります。これを「復位を伴わない関節円板前方転位」と呼んでおり(b)、関節円板がもどらないため関節雑音は消失し、下顎頭がずれた関節円板によって前方に動きにくくなるため開口障害が生じます。これを「クローズドロック」と言います。

顎関節円板障害
顎関節円板障害b) 矢印は関節円板

変形性顎関節症 osteoarthrosis / osteoarthritis of the temporomandibular joint (Ⅳ型)

顎関節に強い負荷が繰り返し、あるいは長時間持続して加えられると、骨の表面が吸収したり、辺縁に骨が新しく作られたりすることがあります。この状態になったものを「変形性関節症」と呼んでいます。口を開け閉めするとき、ゴリゴリ、ジャリジャリと音がすることがあり、滑膜炎などの炎症を伴うと痛みや、滑膜と関節円板が癒着しそのため、いっそう下顎頭は動きにくくなることがあります。

変形性顎関節症

顎関節症の原因

なぜ顎関節症になるのか、以前は噛み合わせが主の原因と考えられてきました。しかし、今では1つの因子によって生じるものではなく、いろいろな因子が積み重なり、その個人の耐久限界を超えたときに発症すると考えられています。つまり、耐久限界にも個人差があり、なりやすい人となりにくい人がいるようです。現在、因子として考えられているものをお話しします。

ブラキシズム

上下の歯をぐっと噛みしめる「くいしばり」や、歯をギリギリときしませる「歯ぎしり」、歯をカチカチ鳴らす「タッピング」などを言います。これは本人が自覚しないことが多く、仕事に集中しているときなど、無意識のうちに行っています。音がする歯ぎしりは少なく2割程度で、残りの8割は音のしない歯ぎしりと言われています。こうしたブラキシズムは、咀嚼筋の緊張を引き起こし、関節に過度の負担をかけることになります。

TCH(Tooth Contacting Habit)

無意識のうちに上下の歯を軽く接触させている状態のことをTCHといいます。通常、何もしていないときは上下の歯は接触しておらず、食事や会話時をする際に接触する時間は1日に20分程度といわれています。接触時間が長くなる ことで、顔の筋肉に緊張や疲労が生じ、顎関節に負担をかけることになります。

悪習癖

日常の習慣である、癖も因子として考えられています。例えば、いつも片側の歯で物をかむ「偏咀嚼」や、うつ伏せに寝る習慣、頬杖をつく癖、背中を丸めて頭を前に出す猫背の姿勢など、普段何気なく行っている行為も、習慣になれば筋肉や関節に負担を蓄積させることになります。

ストレス

家庭、仕事などうまくいかない、経済的な悩み、人間関係などの困難な状況ばかりでなく、うれしいこともストレスになります。こうしたさまざまなストレスを抱え、精神的な緊張を強いられると、無意識のうちに、くいしばりをしたり、肩や首、顔の筋肉を過度に緊張させることにより筋肉痛が起こります。また、ストレスにより睡眠障害や、夜間のブラキシズムを悪化させることもわかってきました。

顎関節症は多因子の積み重ねで発症する

顎関節症の治療

保存治療

1. 認知行動療法
ブラキシズムなどの悪習癖(悪い生活習慣)を抱えていることを本人に認識させ、それらを取り除くように行動させる。
2. 物理療法
患部を温めたり、冷やしたりして症状の改善を図る。筋肉の痛み、緊張などは、温めた温湿布をすると症状が緩和される。また、関節の急な痛みや炎症が起こったときは、逆に冷湿布で患部を冷やしことで、症状が緩和される。
3. 運動療法
筋肉のマッサージやあごを動かしたり、開口練習をして、口の開きをよくする。
4. 薬物療法
薬で炎症を鎮め、痛みをとる、筋肉の緊張を和らげる目的で投与する。消炎鎮痛薬、筋弛緩薬、抗不安薬、抗うつ薬など、いろいろな薬を併用して治療する
5. スプリント療法
当院では、上顎に装着するタイプを採用しています。
スプリント療法

外科治療

1. 関節腔注射・徒手的円板整位術
前方に転位した関節円板を、関節腔に直接注射して関節腔を拡大した状態で徒手的に円板を元の位置に戻そうとする処置です。
関節腔注射・徒手的円板整位術
2. 関節腔洗浄療法
関節腔内に注入と排出の2本の針を留置して、生食水にて関節腔内を洗う処置です。洗浄により疼痛などの症状が改善します。
関節腔注射・徒手的円板整位術
3. 関節鏡視下手術
関節鏡を関節腔に挿入し、関節腔内を観察し癒着部分を剥離やジェービングを行う手術です。当院では入院全身麻酔下で行っています。
関節腔注射・徒手的円板整位術

その他円板除去術等外科的治療がありますが、ほとんどの症例は、保存的治療で症状は改善しております。